明日の記憶
良い点
- 認知症をリアルに知れる
- 抑えた夫婦愛(あなたが病気になったら)
- 記憶の大切さを知る
悪い点
- 少し重いテーマ
- 認知症で上手く出来ないのが、観てて辛い
「もし、あなたが明日の記憶がなくなったらどうしますか?」
どんな内容?
「もし、あなたが明日の記憶がなくなったらどうしますか?」
突然、若年性認知症になった働き盛りの夫の急速な認知症の進行に対して、夫は戸惑い家族は苦悩する。「社会とどう向き合うのか」「家族はどう対応していくのか」をテーマに、夫婦で一緒に戦うと決意して共に歩む姿をリアルに描いた秀作。認知症は誰もが起きる可能性があり、しっかり向き合って観てもらいたい。
冒頭のストーリー
50代を前にした働き盛りの「佐伯雅行」(渡辺謙)。娘の結婚を控え仕事も順調の中、突然「若年性アルツハイマー病」に見舞われ、急激に進行していく。認知症になったらどのような状況になっていくのか、本人や家族は戸惑い、苦悩しながらどのように対処していくのか。
作品解説
「若年性アルツハイマー病」を題材にした荻原浩の同名ベストセラー小説を堤幸彦監督が映画化した感動作。今年で50歳を迎えるサラリーマンの佐伯雅行は、自分が若年性アルツハイマーに冒されていることを知り、がく然とする。徐々に記憶が失われ、焦りや不安から攻撃的になっていく自分に戸惑いながら、妻・枝実子に支えられて病気と闘っていく。世界的に活躍する渡辺謙がエグゼクティブプロデューサーを務め、主演した。
アルツハイマー病(以下、「認知症」)は、高齢者だけでなく40代や50代の若い人など誰でもなる可能性がある病気。もし、「あなたが認知症になったらどうなっていくか」、「そして家族はどう苦悩し支えていくのか」。現実はもっと壮絶な苦悩であると思われますが、エンターテイメントの映画で描けるギリギリな所でリアルに描きつつ、認知症の理解・把握・心構えの助けになる秀作な映画です。こうした認知症を描いた作品は多いが、リアルさと演技の迫力は秀逸。
面白いポイント
「もし、あなたが明日の記憶がなくなったらどうしますか?」
誰にでも起こりうる認知症。若い人の若年性認知症は進行も早く、それまで社会で活躍していた人があっというまに記憶もなくなり、一人では生きていけなくなります。この若年性認知症を、単なる認知症による家族や社会との状況の変化や苦悩を描く従来の物語ではなく、本人がどのようになっていくかを本人の目線で観せながら、本人の性格も大きく変わっていくことをリアルに描いていて、自分がなったらという身近に感じるものに。
また、それを受け止める家族、特に妻の苦悩と頑張りも上手く描けている。渡辺謙の演技は少しオーバーアクション的ではありますが、熱演で伝えてくれています。さらに何と言っても妻役の樋口可南子の演技は、「こんなにできた奥さんはいないよ」と突っ込みが入るかもしれませんが、映画として抑え気味でありながら、苦悩と頑張り、そして夫婦愛を上手く伝えた素晴らしい名演技は称賛。
この認知症の問題は、年を取った高齢者の認知症でも当てはめられるもので、誰にでも身近な問題として観てもらえるので、ぜひ多くに人に観てもらいたいと思います。
あらすじ
50歳の働き盛りのサラリーマン「佐伯雅行」。家では優しい妻と娘がいて、会社でも部長として厳しくかつ部下に信頼と恐れられながらも精力的に働き、娘の結婚式も間近に控えた、どこにでもいる普通のサラリーマン。しかし、
「突然当たり前に出来ていたことが出来なくなる。」
何か変だと思って病院に行くと、若年性アルツハイマー病と診断。突然襲われた病の現実を受け止める余裕もないままに、佐伯の記憶から日常がひとつひとつ消えていき、性格も次第に変わり理不尽な行動をとったり、自分でなくなる恐怖に苛まれていく。一方、妻「枝実子」(樋口可南子)は、来るべき時が来るまで妻であり続けようと心に決めて、夫とともに病と闘い、夫を支援していくことに。
以下、ネタバレ注意
ネタバレ注意(開く)
会社を辞め、娘の結婚式も認知症によるトラブルも何とか乗り越え、手足を動かすことが認知症に効果あるということで陶芸教室に通ったりする。それでもお構いなく進行する病に、認知症の施設を訪れたり今後のことを考えるが、認知症では過去の記憶はそのまま残っていることが多く、はるか昔の青春の記憶に誘われて、自分が妻と結婚前に行った陶芸窯に行ってみることに・・・・・。
キャスト
メインキャストは、認知症になった夫「佐伯雅行」を演じた渡辺謙、その妻「枝実子」役の樋口可南子、娘役の吹石一恵、昔若い時に出会った窯元に大滝秀治、さらに陶芸教室の先生に木梨憲武、夫の会社および仕事の関係者など。
夫 佐伯雅行(渡辺謙)
広告会社の部長で、取引先からも信頼され、会社でも有能な部長として部下に恐れられるが信頼も高い。家族も「美人妻の枝実子」と、「昔少しぐれていたが、素敵な彼氏と結婚間近の娘」と幸せな生活を送っていた。しかし、ある日「自分がどこにいるか分からず」、「見たものがいつもとは違って見えて」不安になる。病院に行ってみると、若年性アルツハイマー認知症の診断。そこから、この病との闘いに。
性格も以前の自分とは違ってきて、変わっていく自分に不安と焦りを感じていく。それを支えたのが、妻である。残っている記憶は昔のことばかりで、妻との結婚前のことなどが現実に感じられていく。
「アルツハイマー認知症でどう変わっていくのか」、「本人はどう感じているのか」を渡辺謙が少しオーバーアクション的ではありますが、実際の病のリアルさを出すため、熱演。
妻 佐伯枝実子(樋口可南子)
樋口可南子が、急に認知症になった夫と共に病と闘い、夫を支えていく妻「枝実子役」に。出来ることが減ってきて、色々な世話が必要になる認知症になっても夫を愛し、看ていく決心をする。「こんなに良い妻がいるのか」と思うほど良い妻であり続けるが、実際は認知症がひどくなると自分を犠牲にし、介護に疲れて時には心の中で死んでほしいとさえ思うほど大変な認知症。映画ではその前までしか描いていないが、認知症の介護の大変さは、ちゃんとリアルに演じていたと思う。介護する側も感情的になりそうだが、抑えた演技で夫婦愛を演じていて、映画としては秀逸な演技だと思う。
陶器窯元 菅原卯三郎(大滝秀治)
以下、人物ネタバレ注意
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結婚前に訪れた陶器窯元の役。本編の最後に思い出なのか現実なのかは分かりませんが、雅行と人生に関して語るシーンは雅行の本音が語られ、昔の自分と照らしながら人生を見ることができ、自分に残された中で最も大切なものを改めて知ることとなった。そのガイド役に大滝さんが上手く演じられていた。
感想
今や誰でも起こりえる認知症。それをなったものの目線、家族、社会がどのようになるのか、重く暗くなるテーマを映画のエンターテイメントでギリギリな所でリアルに描きつつ、「家族愛」や「本人の苦しみ」、「過去の思い出」、「そして明日に向かっての一歩」を大変上手く描いた作品になっています。
本当の現実は、もっと大変で壮絶になるとは思いますが。特に、認知症による攻撃的に性格が変わっていったり、徘徊するようになったりすることが身近に感じられました。
私もいつ認知症になるかわからないけど、こうなっていき家族はこのように苦労をしていくのかを思いながら、認知症を感じられるうちに、自分は早く施設に入っていく必要があるのかなと思いを巡らせていました。
以下、ネタバレ注意
ネタバレ感想
演技に関しては、妻役の樋口可南子さんの演技がとても好きでした。
夫の認知症の世話が大変中、夫が会社を辞めて収入もなくなり、生活を支えるために外に働きに。いつもは優しい妻だが、仕事の疲れで夫の病に我慢出来なくなることもある。しかし、世話が必要になっても夫を愛し、看ていく決心をするシーンが印象的。
妻に「俺が変わってしまっても、俺が俺じゃなくなっても平気なのか?」に謝る夫に、妻が 「だって家族だもの。私がいます。私が、ずっと、そばにいます。」という言葉に感動しました。