三月のライオン
良い点
- クセはあるが魅力的な棋士の描写
- 登場人物を心理を丁寧に描写
- 厳しい世界と優しい世界の魅力を表現
悪い点
- 連載速度的に完結までに時間がかかりそう
「不思議だ、ひとはこんなにも時が過ぎた後で、全く違う方向から嵐のように救われることがある」
どんな内容?
零は将棋の天才で、孤独な生活を送っていました。でも新しい家族や友達に出会い、彼の世界が変わります。友情や家族の愛が彼の心を支え、将棋の世界だけでなく、人間関係や自己成長も大切だと学びます。零の物語は、将棋の勝利だけでなく、友情や家族との絆も大切にすることを教えてくれる、心温まる物語です。
冒頭のストーリー
3月のライオンのストーリーは、主人公の桐山零がある日家族を交通事故で全員亡くし、父の友人である将棋棋士の内弟子として引き取られることから始まります。
葬式会場では誰も零に対して優しい言葉をかける人はいない中、唯一話しかけてきたのが父の友人でした。零には親しい親戚もおらず厄介払いのため施設に入れられてしまうため、生きて行くための選択肢として将棋棋士の内弟子を選択します。
そんな零ですが、少年時代を全て犠牲にして作中で史上5人目となる中学生でプロ棋士となります。しかしプロ棋士になった零ですが、人との交流が苦手であるため内弟子の家や学校で孤立をしており、更に将棋のプロ棋士として過酷な戦いを続けることでボロボロになっていきます。
しかし、そんな零にとある家族との出会いがありました。
偶然知り合った「あかり」「ひなた」「モモ」の川本家三姉妹です。
常に孤独で戦っていた零は川本家の「ほんわか」した雰囲気に触れることで、段々明るくなっていきます。
『3月のライオン』は、「将棋のプロ棋士としての戦い」と「川本家を含めた人との交流」を経て、零が成長していく物語です。
面白いポイント
3月のライオンは将棋の戦いによる熱量もしっかり描かれ、人間ドラマもかなり面白くオススメの作品です。
話の内容はおおまかに分けると「将棋の世界」「川本家を含めた人との交流」の二つの軸で進んでいきます。
①将棋の世界
作中において、登場人物の心情描写がとても丁寧であり、プロ棋士として一戦ごとに本当に勝ちたいという熱意が伝わってきます。
また、主人公である零は史上5人目の中学生プロという肩書があるように普通のプロと比べ実力があります。しかし、それでも将棋の世界にはそれ以上に優れた実力を持つ棋士も多く存在します。また、一癖も二癖もある魅力的な棋士が多く描かれており、今後、そんな独特な棋士達に囲まれた零がどのように成長するか楽しみです。
また、魅力的なキャラクターの中でも、特に「二階堂晴信」「島田開」の二人が好きです。
二階堂晴信
「二階堂晴信」は零のライバル兼親友ポジションであり、零と同等の実力を持っています。
しかし、二階堂には長期間戦うことができない病気があり、長時間の対局や暑さなどの過酷な環境において体調を崩してしまうというハンデを背負っています。そんな、難病により子供の時から外で走り回るなどの普通の子供がする遊びが出来ない二階堂は、唯一主役となって暴れ回れる事が出来る将棋に誰よりも真摯に向かいます。
零と二階堂は境遇は違いますが、それぞれ少年時代から将棋に人生を掛けており、小学生の時からお互いに努力と実力を認め合う「ライバルであり親友」です。
そんな二階堂を象徴するシーンとして以下のようなものがあります。
それは、二階堂と零はトーナメントで戦う約束をしていましたが、二人が戦う前に二階堂が病気のせいで負けてしまいました。その試合の後、二階堂は入院をすることになり、親友として零が始めて二階堂の病気について正面から向かい合いたいと島田さんに話します。
それまでは、病気についてお互い暗黙の了解で触れていませんでした。二階堂は零には病気のことを知られたくないため話せず、親友とは言え零も二階堂の難病に触れられなかったのですが、二階堂の将棋への覚悟を知りたいため、二階堂の兄弟子である島田さんにお願いをして話をしてもらいます。
「彼の病は難病とされるもので一生つき合ってゆかねばならないものだった」
「ケンカもスポーツも友達と遊ぶことすらほとんど全て叶わなかった」
「彼が唯一主人公となって暴れ回る事が出来るのはこのたった81マスの盤上のみなのだ」
プロ棋士同士の戦いは基本長時間の戦いとなり難病を抱える二階堂は常に不利な状況になります。
しかし、そんな二階堂は決して負けた理由を病気のせいにせず、過酷なプロ棋士の世界で戦い続けます。体調の悪化が原因となり勝負に負けることもあるが、決して折れることなく「次は絶対に負けない」と不敵に笑う二階堂の姿にはとても魅力を感じます。
島田開
「島田開」は二階堂の兄弟子で、将棋界で上位10名で構成されるA級棋士の一人です。
島田さんと零との出会いは、トーナメントにおいて零が因縁の相手との戦いを目前に控え、前段の戦いとして島田さんとの一戦がありました。零は本命の相手は翌戦であるため島田さん自体は眼中にないという態度をとります。しかし、やはりそこはA級棋士、島田さんは零を圧倒的に打ちのめします。
零としては眼中になかった一戦ですが、実は島田さんは弟弟子である二階堂から「視野が狭くなっている零の目を覚まして欲しい」と頼まれていたのでした。
その後、島田さんとの一戦を反省した零は、島田さんに誘われ二階堂も所属する島田研究会(※プロ棋士同士での勉強会)に所属することになります。
また、島田さんの魅力は漫画を読めば伝わりますが、一言でいえば「努力の人」です。
子供時代は、地方の片田舎から夜行バスに乗って将棋の奨励会(プロ予備軍)に通い続ける生活をしていました。裕福な家庭ではないため、自分でバイトを行ったり村の人たちの援助でなんとか交通費を稼いでいました。プロになるための奨励会は決して易しいものではなく、島田さん自身も決して特別な才能があるわけではありませんが、努力を諦めずプロになることができました。
そんな島田さんの魅力を象徴する台詞として以下のようなものがあります。
それは、将棋の神様と言われ作中最強の天才棋士「宗谷冬司」とのタイトル戦を控えた島田さんが零に語った台詞です。
「宗谷は天賦の才に加え、決して過信せず努力を続ける」
「だから、俺と宗谷との差は縮まらない」
「しかし、『縮まらないから』といって、それが俺が進まない理由にはならない」
「『抜けない事があきらか』だからって、俺が『努力しなくていい』ってことにはならない」
島田さんはA級棋士であり作中でも上位の強キャラですが、決して特別な才能があるわけではなく誰よりも努力をすることでA級棋士になった作中屈指の努力の人です。また、人柄にも優れ「零」「二階堂」といった後輩にも慕われたり、努力以外にも人を惹きつける魅力があります。
作中には才能に溢れた棋士が多く存在しますが、そんな棋士たちと努力で対等に渡り合っていく「努力の人、島田さん」。全体的に地味だけど誰よりも努力という熱量があることがカッコイイと感じます
②川本家を含めた人との交流
「将棋の世界」がプロとしての過酷な戦いが描かれますが、一転「川本家を含めた人との交流」を通じて「ほんわか」した雰囲気が続き、戦いに疲れた零を癒し、また人間として成長させるきっかけとなります。
プロ棋士の戦いは基本一対一であるため孤独な戦いであり、最終的には自分自身だけで戦い、強くなるためには人との交流は必要ないのかもしれません。ですが、家族を事故で失い、友達作りも決して上手くない零にとって、初めて「家族」のように付き合える人たちとの出会いは決して無駄ではありません。
それまでは、零はメンタル的にもボロボロになっていましたが、川本家との交流から段々と傷が癒え、性格も明るくなり、以前とは異なり色々な人と交流するようになり成長していきます。
しかし、そんな零にとっては家族であり恩人である川本家にもトラブルが発生します。
それは、川本家の学校でのいじめ問題、不在であった父親とのトラブルなどです。
零はそれまでは将棋のことだけ考えていたため、人との交流は極端に避けていました。
ですが、川本家に救われた零は恩返しとして、川本家に降りかかる災難を「家族」として解決に向け行動していきます。初めて誰かのために動いた零は人として成長し、それが結果として将棋への取り組み方が変わっていきます。
川本家との交流は、勝負の世界と一見関係がないような日常パートですが、この漫画においては零の人間的な成長においては大切なプロセスとなります。
感想
面白いですね。将棋の漫画結構ありますが、基本的にはどれも心理描写が丁寧で面白いものが多いです。その中でも「三月のライオン」は一番面白いと思います。
三月のライオンに出てくる将棋のプロ棋士はどのキャラも濃すぎる言えるほどキャラが立っており、「強さ」と「カッコよさ」と「クセの強さ」が混同する魅力があるキャラクターになっています。
ただ強さを求めている人たちだけでなく、棋士ごとにどのような人生を歩んだかを回想で語り、それぞれ将棋の強さとなる原点が違うことで、この人の生き方はカッコいいと思える棋士に出会えるような漫画となっています。